
先日、在仏日本大使館に日本政府の科学技術担当の偉い方がいらっしゃって、意見交換ができるということで、お話を聞きに行ってまいりました。
結論から言うと、こんなに人間的で、視野を大きく持っておられて、真剣に日本の科学技術の行く末を考えている方が政府の要職についておられることを知って、純粋にうれしかったです。あとは政策が、変なところで蛇行したりしないで、狙い通りの結果を出してくれることを祈るばかりです…
2時間半くらいの予定の会だったと思うのですが、参加者の皆さん(フランス在住の研究者)がとても活発で、3時間以上の会になりました。いろいろな立場からご意見を伺って、勉強になりました。
がっかりしてしまう、日本の研究環境と成果
まずは、今回の主役、政府の偉い方から日本の科学技術の暗い現状についてお話を伺いました。
日本では研究費 (民間も含め)や研究に費やす時間はどんどん削られ(その一方で中国の予算は激増!)、日本発の論文数もどんどん減り(中国の論文数は激増!)、Scienceの日本人審査編集員激減、しかも、日本人研究者は国際的な研究者ネットワークには入れていない、などなど、暗い話が95%くらいでした。しかも、日本におけるAIへの投資がものすごく低い、と言うことも、かなり衝撃的な情報でした。日本の組織は前例を気にすることが多くて、革新的なことを推し進めていくことが苦手なそうです。「私が責任を取るからやりましょう」って言ってくれる人が必要なんでしょうか…。
そういえば、以前、私が所属する組織と、日仏の複数の組織で研究ネットワークを言うものを作りたい、と打診したところ、複数の日本の組織で、「ネットワークという契約書は前例がないので、無理」と言う返事がきました。このネガティブな傾向は大きな組織ほど強く、小さな大学だと簡単にOKが出ました。
前例が必要だと、新しいことって一切できません。責任を課せられるのが嫌なのか、よくわかりませんが、日本の組織にがっかりした経験の一つです。
新しい政策はこの現状を打開してくれるのか
さて、話をこの意見交換会に戻します。「このままでは日本の科学技術は本当にやばい」と言うことで、日本政府として色々対策を立てているそうで、そのいくつかをあげてみると
研究機器を共有の資産として集約化、自動化する
技術職員を増やす
若手研究者の呼び戻し(J-RISE Initiative)
国際卓越研究大学と言うものを認定して、教育メインの大学より研究費を多めに出す
などなど…予算もかけて、対策を考えているようです。
特に、高価な機械を研究室ごとに購入するのではなく、組織や、組織を超えたところで購入して、技術職員を置き、多くの研究者がアクセスできるようにする、という取り組みはとても良いと思いました。イギリスでも、フランスでも、多くの機器は研究室の備品ではなく、共用です。この方が、無駄もないし、各PIの負担も低くて絶対に良いと思います。日本は大きな国ではないので、高価な機械を使うためにちょっと他県に移動するくらいは何でもないと、私の感覚では思います。
技術職員を増やすのもいいですね。そういう専門の方がいないと、高価な機械の使い方がわからなくなったり、教員や研究者が貴重な時間を割いて、新人に何度も機械の使い方を教える、みたいな状態になりかねません。それに、修理やメインテナンスまで研究者の仕事になったら、研究に費やす時間が削られてしまいます。ですから、博士か、せめて修士課程卒くらいの人が、重要な機器の担当になってくれると、みんながハッピーになれると思われます。もちろん、そういう方にはパーマネントな職を用意するべきだし、そのためにはたくさんの予算が必要です。その辺、大丈夫なのでしょうか。
J-RISE Initiativeというのは、アメリカ脱出を希望する優秀な研究者をキャッチする目的が多分にあったようですが、日本人でもこの制度を利用して帰国した方がいるそうです。それでも、優秀な日本人研究者で、なかなか日本の研究職に就けない人を何人か知っているので、その辺、もっと国で何とかしてほしいなあと思いました。海外を放浪する優秀な日本人、もったいないです。そして、そんな優秀な人が腰を落ち着けて研究に集中できる環境が必要だと思います。5年くらいの給料を出す程度では、十分ではないと思います。その後、どうしろって言うのでしょう。
また、国際卓越研究大学などを作って、他の大学と予算的に差をつけた援助をするというのは、かなり大きな賭けではないかと思いました。今のところ、東北大と東京科学大(この名前ひどい…元東工大+医科歯科大)が認定されているようですが、他の大学から不満は出ないのでしょうか。
ただ、教員を養成することに力を入れている大学と、研究に力を入れる大学が同等に扱われて、同党の予算を配布されるのはおかしい、という考えには一理あると思いました。
研究成果を上げるために配布される予算が、実際に研究成果を上げることを祈るばかりです。研究と言うのは、お金だけあればうまくいくものではなく、分野を超えた共同研究、優秀な人材、データ共有と多量のデータ解析等々が必要です。
むやみに予算の使い方を細かく管理するより、長い目で見た、本当に役に立つ投資をしていただきたいものです。
フランス側から思うこと
また、フランス在住の日本人研究者の方からも色々な意見が出て、とても興味深かったです。
日本では、大学教員が入試に時間を取られすぎている、とか、日本の大学では慣習にしばられて効率のいい運営をすることができない(教授会には教授が全員出席しないといけない、ワーキンググループなど目的にあった会議を少人数でやらない)とか、アファーマティブアクション(特に女性を優遇すること)に対する男女両方からの複雑な気持ち、などがありました。
私は、フランスの良いところとして、比較的若いうちにパーマネントの研究職につけること、機器共有が一般的なこと、それから、研究者同士の交流にお金が出ることを挙げてきました。
フランス研究環境の悪いところだってたくさんあります(研究予算低いとか、パーマネントになって働かなくなる人が多いとか、英語苦手とか)。フランスの良いところは参考にして、日本の研究環境がこれから良くなっていくことを祈ります。
環境が良くなれば、結果は自ずとついてくるでしょう。

コメント