中国の研究者に学ぶこと

フランスで研究

昨年の学会で初めて会った中国の研究者のMさんからご招待いただいて、彼の研究室にお邪魔してきました。中国の大学には、外国人を招聘する予算があって、その予算と彼個人の研究予算を合わせて航空券や高級ホテルを支払ってくれたそうです。その上、色々なところに観光に連れて行っていただいたり、学部の教授陣とのちょっとフォーマルなお食事会やら、学生と和気あいあいのお鍋を囲んだお食事会など、しっかりごちそうになってきました。ありがたいことです。

いつも中国に行くと、日本でもフランスでも経験したことのようなおもてなしにあって(空港からの送り迎えなど)、もう、申し訳ないほどになります。特に毎晩の宴会がすごいです。

こういう宴会予算って、日本にはないと聞きますし(フランスでは可能だけど、金額は低くなりがち)、世界に追い付け追い越せ、という中国の国家を挙げたやる気みたいなものを感じます。

一昔前は、中国の論文は気をつけて読むようなところが自分の中にはあったのですが、今ではNatureもScienceも中国からの論文が多数掲載されていて、彼らはもう世界一だなあ、と感じています。もう、追いつけない勢いです。

それで、色々な人とお話しして、ちょっと気が付いたことがあったので、まとめてみたいと思います。

中国の研究者はよく働く

私がアメリカにいたころからそうでしたが、中国の人って本当に長時間よく働きます。

今回訪問したラボでは、博士課程の学生の場合はお休みは土曜と日曜の朝のみだそうです。

博士課程の学生の一日はこんな感じ

8:30研究室到着、作業開始

12:00-14:30 昼休み。学食でササっと食事して、寮でお昼寝

14:30-18:00 実験、論文書きなど

18:00 ササっと学食で食事の後、作業再開

22:00ごろ寮に戻る

という研究がすべてな生活だそうです。日曜日の午後には博士課程の学生と教授陣が集まって研究結果の発表会(1回3人くらい)があるそうです。教授陣も大変ですね。

修士課程の学生の場合は、もう少し「ゆるい」スケジュールになるそうです。

で、この研究一色の生活を支えるのが、バラエティ豊富かつ安価な学食。私の訪問した大学では、キャンパス内に20の学食の建物があるそうです。どの建物も3-5階くらいあって、ショッピングセンターのフードコートみたいな感じとのこと。学生が6万人もいるそうですので、そのくらいの学食が必要なのでしょうけど、すごいです。お値段は高めのところでも、一食300円くらいで、ボリュームたっぷりで、栄養バランスもよさそうでした。

今回、私を招待してくれたM助教授の奥さんは、大学で技術系のサポートをしているそうで、夕食はよく学食で一緒に食べるそうです。息子さんは大学の幼稚園に預けて、一緒に通学しているとのこと。家で料理するのは、週末だけなんだそうです。

フードコートみたいな学食。おばさんががんがん客引きするのも面白い
日本ではやっているらしい麻辣湯。これも学食。

中国は競争社会

どうしてそんなに頑張って働くかっていうと、やはりそれは中国にはたくさんの人がいて、競争社会だからなのだと思います。

博士課程は始めるのは割合と簡単だけど、学位を取得するのはすごく難しいそうです。

私の訪れた大学では、普通は4年間で博士号の審査がありますが、この審査はdouble blindで行われるので、審査員には学生の名前や所属研究室がわからず、学生には審査員たちの名前がわかりません。この段階でCAS(Chinese Academy of Sciences, 中国科学院)が認めるジャーナルに論文が出ていないといけないし、その研究の質も審査されるのだそうです。ここで、研究成果が博士号に値しないと判断されると、もう一年研究して再トライとなるそうです。合計6年間は博士課程にいられるけれど、それ以上になると失格になってしまうとのこと。

この審査を通ると、口頭試験があって、同じ日に何人もの博士課程の学生が発表し、質疑応答があってめでたく博士となるそうです。この口頭試験はどちらかというと、儀式的な感じで、ここで落とされることはあまりない、とのことでした。

博士号を所得するまでは、他人との順番争いと言うよりは、平均以上の質の高い研究をするところに重きが置かれるようですが、その後、大学等での研究職に就くためには、やはり他人との熾烈な戦いに勝たなければなりません。この辺りはどこの国でも同じですが。

ちなみに 論文の equal contribution はequalとはみなされず、first とlast authorのみがその論文の筆者として認められるそうです。だから、自分の研究を一人でがんがんやらないといけないわけです。その辺のプロジェクトの線引きは、早いうちにしっかりとしているような印象を受けました。

中国ではプロジェクト付きのポスドクと言うポジションがないそうで、多くの人は海外でポスドクをして、大きな論文を発表して、中国にテニュアトラックの助教授として戻ることをめざすようです。

大学の助教授になっても、まだまだ戦いは続くそうで、中国国内の研究者ランキングというかクラス分けみたいなものがあって、そこで上位に入っていないと、昇級とか、グラントをとることが難しいそうです。Mさんは、去年これの審査にトライしたものの、上のクラスに入れなかったそうで、今必死にハイインパクトの論文を出そうと頑張っています。

中国国内の競争が、世界に与える影響

中国国内での研究者のランク付けは、その研究者の発表した論文によってほとんど決まってしまうそうです。もちろん、Science、Nature、Cellに出せれば、その後の研究人生はかなり安泰なものになるそうで、みんな最初からその辺を狙っているようです。

Mさんの最近の論文は、すごくいい研究だし、すごい量の実験結果が満載なのです。でも、ちょっとその御三家に行くほどの「メッセージ性」というか「目新しさ」に欠けていると思うのですが、それでも負けずに上を狙って、投稿するのはすごいパワーだと思いました。エディターにリジェクトされても、めげずに数日でスタイルを直してまた投稿するところが、なんともすごいです。

この辺り、最近そこそこのところで満足している私には、いい刺激になりました。

さて、研究者のランク付けですが、CAS(Chinese Academy of Sciences, 中国科学院)が認めたジャーナルに論文を出していないと意味がないので、CASが良しとしないジャーナルには中国人の若手研究者は特に論文を投稿しなくなりますよね。で、これが、ジャーナルのインパクトファクター(IF)に大きな影響を与えているとのことです。

先日のNatureには今後このランキングが発表されなくなる、と言う記事が出ていました。この記事がNatureにでるところが、その重要さを物語っています。

Closure of China’s influential journal ranking leaves academics reeling — what will take its place?
Several other lists have been launched in the past year, but some scholars want research evaluation to take new forms.

私の分野でも、最近IFが急上昇したり、急降下したりするジャーナルがあるのですが、その理由の一つはこのCASのランキングによるところもあるようです。中国の研究者が一斉に投稿しなくなったら、何しろ研究者数がすごいから引用数も激減してしまって、IFが急降下ってことになります。

ちなみにいくつかのジャーナルは(結構いいところも)ブラックリストに入っていて、そこに論文を発表しても負のインパクトしかないそうです。

それほど大したことないジャーナルでも、中国の研究者が編集責任者だったりするとすごい得点が高いそうで、世界全体とは微妙に違ったランキングが使われているところが面白いところです。

何しろ、14億の民がいる中国が世界のIFに与える影響って、かなりのものと推察できます。

中国の研究はレベルが高い

今回は二日間の間、博士課程の学生さんの研究発表を聞き、ディスカッションをしてきました。どの研究もなかなかユニークで、しかもいろいろな新しいテクニックを使って一つの問いを掘り下げていきます。

ちょっと質問すると、その答えは次のスライドにあるって感じで、どんどん深く追求していくところがすごいと思いました。それに、確認的な実験も面倒がらずきっちりしてあって、ほんと、すごかったです。

今、私のラボではドイツ人の人と共同研究していて、ドイツ人+日本人気質のせいか、一つ一つのステップで完全にきちんと解析しないと次に行かないような部分があるのですが、今回の中国人の学生さんは、今の段階で分かったところから(活性のある物質の決定とか)掘り下げていくという感じで、こっちの方がやはり進みが早くていいなあ、なんて思いました。

中国の学生は修士から博士まで同じ研究室で、つながりのある研究をすることが多いそうで、フランスの学生(修士1年は2か月の研究プロジェクト、修士2年は別のラボで6か月の研究プロジェクトに従事)には全く太刀打ちできない研究の質と量を感じました。

ちょっと弱いかなと思ったのは、英語によるコミュニケーションです。英語の読み書きはOKだけど、恥ずかしさもあってか、英語で話すのが苦手そうな学生さんが多かったです。教授不在の夜の宴会になると結構元気になって、たくさん話していたので、機会さえあれば、すぐ上手になるのではないかと思いました。

中国の教授はそれなりに大事にされている

がんばって競争を勝ち抜き、テニュアの教授になると、どんないいことがあるのでしょうか。

Mさんによると、教授になると研究資金がとりやすくなったり、給料も上がるとのこと。給料の金額については聞きませんでしたが、Mさんはアメリカ製の大型SUVに乗っていたので、今でもそれなりにいいお給料をもらっているのではないかと思いました。面白いと思ったのは、教授になると学部の建物の地下に専用の駐車スペースがもらえること。そこにはドイツ製とか日本製の高級車がずらっとならんでいました。

だから、上に行けばそれなりのお給料と特権がもらえるようです。

フランスでは、研究者としてのクラスが上がれば給料は多少増えますが、一般市民より良い車を買えるほどではないし、専用の駐車スペースももらえません。昇級して待遇が良くなったと感じたことは一度もありません。疲れがたまることの方が多いかも。

それから、大学の偉い方が主催で宴会をしてくださったのですが、みんなこの長には一目置いているという感じで、彼が話すと、みんな静かに話を聞いて、相槌を入れていて、階級社会を垣間見た感じでなかなか面白かったです。

また、この人との会見は本当にギリギリになるまで時間が決まらなくて、Mさんもしきりに連絡を取っていて大変そうでした。中国では、偉い人の予定に下の人が柔軟に予定を合わせなくてはいけないことになっていて、偉い人はそのまた上の偉い人に合わせないといけないので、なかなか最後まで分からないことが多い、とのことでした。

ちなみに、この偉い人が研究室に来られるのは、大学が長期休暇に入った時だけなので、この研究室では長期休暇も短縮して研究発表会をするそうです。

最後に

というわけで、なかなかタフな中国の研究生活を見学してきました。週40時間しか働きたくないし、博士課程が3年間しかないフランス人の学生には、全く太刀打ちできない相手だと思いました。

中国の研究者の中には、外国の経験がなく英語が苦手だったり、外国人の知り合いが少なくて、学会等に招待されることが少なかったりするため、大学が援助して私のような外国人を招聘するお金があるようですが、あと数年で、そんな必要もなくなるのではないかと思うほど、研究のレベルは高くなっていました。

研究一筋の生活を非難する声はあるとは思いますが、ある程度の努力と時間の投資なしに、大きな論文を出すことが難しいのは疑いようのない事実です。

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