
はじめに
研究留学のために各種奨学金やフェローシップに応募する際には、受け入れ先となる研究室の長(principal investigator, PI)に連絡を取り、受け入れに合意してもらい、さらにはその由を手紙に書いてもらったり、応募書類の準備を手伝ってもらわなければいけません。
この合意をもらえば、複数の奨学金やフェローシップに応募して、チャンスを増やすことができますし、応募書類にはかなり詳細に実験計画を記述する必要があるので、PIとはなるべく密に連絡を取って、良い関係を築く必要があります。
また、留学のための資金をこれから得る場合(お金持ちでない場合)、研究室探しから、資金獲得、ついに留学、となるまでには1年以上かかると思ってください。
自分の興味を理解
当たり前のことですが、自分がどんな研究分野に興味があるのか、一生をかけてやっていきたい分野は何か、ほんの少しでも貢献したい分野は何であるか、自分に聞いてみてください。
ここをいい加減にしてしまうと、将来つらいことがあった時に乗り越えるのが大変ですから、しっかりじっくり時間をかけてください。研究生活でつらいことのない人なんて、いないと思います。実験がうまくいかなかったり、意地悪なレビューワーにあなたの書いた論文をぼこぼこに言われたり、グラント申請が却下されたり、なんてよくあることです。さらには、ラボ内のいじめとか、次の仕事が見つからない、なんてこともあるかもしれません。
「それでも私はこの研究が好き」と言えるくらい好きな研究分野を見つけてください。
なんだかよくわからないけど、研究したい、という人は、研究の何が好きなのか考えてみるといいかも。また、読むことはとても大事です。研究論文でも、大衆用の科学系記事でも、なんでも読んで自分の興味の先を見つけてください。
あなた以外にこの作業をできる人はいません。
気になる分野の研究論文をたくさん読む
興味のある分野が少し見えてきたら、その分野の論文をがんがん読みましょう。
まずはレビューを読んでみて、その中で引用されている論文を読んでみましょう。完全に読み切る必要はないのです。Abstract(要旨)を読んで、まずは図を一通り見て、目的、だいたいの実験内容とその結果をみて、そしてDiscussionの部分はしっかり目を通すとわかりやすいと思います。
全然わからないし、読む気も起きないなら、読む必要はないのです。あ、これなんだろう、って気になるものに目を通していけば、少しずつその分野の、しかも自分が興味を持てる分野がわかってくるはず。
だいたい好きな分野が絞れたら、キーワードで検索して、その分野の最新の研究に目を通していきましょう。あなたがその分野の研究に参入するとしたら、どんなことがやりたいですか? そのやりたいことをやりそうなラボはありますか?
この研究室探しの際に、Nature や Scienceなどのハイインパクトなジャーナルに論文をバンバン出しているような超有名ラボに心惹かれることもあると思います。
もちろん、そんなラボに入れたら、小さなラボでは得られないような経験が得られます。
例えば、超有名研究者ネットワークに顔を出せるとか、強力なOBOGとお知り合いになれるとか、研究資金がふんだんにあるとか、良いことはたくさんあります。でも、研究室内の熾烈な戦いがあったり、PIが忙しすぎて、なかなか話す機会がない、なんてこともありますので、有名ラボだからって焦って飛びつかない方が良いでしょう。まあ、そういうラボは受け入れ基準もかなり高かったりしますが。
気になる研究者とコンタクトをとる
気になる分野の気になる研究者が何人か出てきたら、コンタクトをとってしまいましょう。
日本の研究室に属している場合、教授等々に「この人個人的に知ってますか」って聞いてしまいましょう。この世界、コネも大事です。「どこの馬の骨かわからない人」にメールの返事を書いてくれる人は少ないです。でも、知っている人からのメールには返事する人は多いでしょう。だから、もしコネがある場合は、それを利用してあなたのカバーレターとCVを送ってもらいましょう。
もし、ラッキーなことに国際学会に参加できて、しかもそこに自分の興味のある研究室のPIが来るならば(事前調査必須、学会の要旨集とか参加者集でチェック!)ポスター閲覧の時間などに会ってお話ししてみましょう。
学会中って、忙しくて長く話し込む時間がないかもしれないので、まず直接会って、「XX 先生、あなたの研究のこういうところに興味があるのです。あなたの研究室でポスドクしたいのでXXXフェローシップに応募したいのですが、後日私の履歴書をメールでお送りしていいでしょうか」くらい言えたら、最高です。それで “XXX conference follow-up” みたいなタイトルでメールを送れば、見てもらえる確率は上がると思います。
“Hello Prof. X. I am particularly interested in this (xxxxx) aspect of your research. I would like to apply for the XXX Fellowship to become a postdoctoral researcher in your laboratory. Would it be OK if I send you an email with my CV?”
もちろん、そんな風に会える機会はなかなかないと思いますので、そんなときはメールをおくるしかないですね。
そのときも、そのラボのどの研究に心惹かれ、どんなことをやりたいか、を短く(1-2文)カバーレターに書く必要があります。やりたいことをざっくりと説明し、あまり細かいことは言わない方が受け入れてもらえる確率は上がります。
なぜかと言えば、今発表されている論文って、結構古い研究のことが多いからです。研究室内では実際に次のステップの研究が始まっているかもしれません。
それから、あなたの好きな研究材料(菌とか動物とか植物とか昆虫とか)にこだわって、これを使ってこういうことがしたい、なんていうのも受け入れ可能性を減らしてしまうので、相当なことがないかぎり、やめた方がいいと思います。特に現在その研究室で使っていない研究材料を用いることは、準備(書類手続きやら、材料入手やら、メインテナンスやら)が大変ですから、「うちはそういう材料は使いませんので、さようなら」という返事が来る可能性大です。
こだわりは方向性や大きな研究テーマのみにしておいて、詳細は受け入れ先から研究課題の提案があってから交渉したほうが良いでしょう。
研究課題の提案があれば、しめたもの。うまくすり合わせをして、お互いにやりたいことができるように研究プロジェクトを作っていきましょう。すり合わせがうまくいかないようなら、その研究室で2-3年過ごしたいかどうか、そのPIと一緒に研究したいかどうか、自分に聞いてみてください。
研究室の雰囲気をチェック
研究課題は重要ですが、自分が楽しく研究できることも大切です。アメリカでも、イギリスでも、研究室の雰囲気やPIの気質にまつわるホラーストーリーはいくつか聞いたことがあります。
できれば、ある程度コンタクトを取ったところで、観光旅行も兼ねて研究室に行ってみるといいと思います。研究室の人たちと一緒にお昼でも食べて、PIのこととか、ラボのこととか聞いてみましょう。
それに実験設備や、街の様子なども見られるので、お金はかかりますが、その出費の何倍もの利益になると思います。
また、国際学会などで研究室の学生やポスドクも来ていたら、ちょっとおしゃべりしてみましょう。ポスター発表の時間が、こんなおしゃべりに最適です。
最後に
研究留学は一朝一夕にならず。
自分を知り、研究課題を知り、受け入れ研修室を知る中で、あなたが次の数年間を過ごしてみたい場所を選んでください。
この選択が、あなたの研究人生に大きな影響を与えることは必須です。決して、手を抜かないでくださいね。

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