研究留学のタイミング

留学全般
枯葉が落ちるころには新芽の準備が進んでいる

いつ海外に行くのが効果的?

海外に行くための奨学金や奨励制度はいろいろあります。

一体、いつ行くのが一番効果的なのでしょう。

その答えは…どんな効果が欲しいか?に尽きると思います。

学部生の留学

学部生だと、まだ研究をするというよりは、視野を広げたり、自分を知るために、留学する効果があるのではないかと思います。また、言語習得は早く始めた方が上達が早いので、外国語を習得することを目的に留学するのもよいのではないかと思います。日本で外国語教室に通ってネイティブと会話の練習をするのは上達への一歩ですが、外国に行って、その言葉しか通じない状況に身を置けば、より早く深くその言語を身に着けられるでしょう。

外国に身を置いて、それなりの困難やら、カルチャーショックやら経験して、人と言葉でコミュニケーションできない苛立ちとか不満とかをやり過ごしたり、乗り越えたりするのは、その後の身の振り方にきっと何らかの影響があるはず。

その後、修士や博士課程で、また機会を作って留学するのもいいですよね。

修士課程での留学

外国の修士課程に最初から入ってしまう、というのも可能ですが、理系の修士課程の位置づけは国によりずいぶん違うので注意が必要です。理系の修士課程がほとんど認識されないような国もあれば、卒業までに4年以上かかる国もあるそうです。また、学部から修士課程を経ないで直接博士課程に入れる国もあります。

理系の場合は、丸ごと修士課程を外国でやるよりは、修士課程の数か月を外国の研究室で過ごす、という機会の方がずっと多いのではないかと思います。

修士課程に入ると、ちょこっと研究みたいなことも始まって、海外でひとこまの経験を積むのは、その後研究を仕事とする場合にも役に立つと思います。この時期、ほとんどすべての実験やテクニックが新しく習うことなので、それ自体、重要な経験になるでしょう。その上、海外では日本と違った安全管理のもとで実験を行い、日本とは異なる組織の中で実験方法を習うことになるので、日本の仕組みと比較することで、学ぶことも多いのでは。

私は日本、アメリカ、イギリス、フランスで研究生活を送りましたが、アメリカの安全管理が一番緩く(杜撰ともいえるかも)、次に日本、イギリスと続き、今いるフランスの安全管理が一番厳しいと感じています。安全管理の厳しさは、同じ国の中でも研究所や大学によってまちまちではあると思うのですが、今、日本の研究所を訪れると、こんなことが許させるのか、とびっくりすることが多いです。日本では多くの場合、施設のスペース不足で、安全対策が万全に行えないことがあるように思います。

まあ、いろいろな違いに気づいて、考えてみるのは、その後どんな仕事に就くにしてもいい経験となるでしょう。博士課程中に、数か月だけ外国に行って研究してみるのも、同じような効果があるのでは。

また、外国で同じ課程にいる学生さんたちと交流するのも、将来を考えるいいきっかけになると思います。

博士課程からの留学

博士課程から外国の大学院に入る、という機会は結構あるのではないかと思います。この場合、研究者としてやっていくために必要な知識とスキルをしっかり獲得できると思います。

もちろん、日本で博士課程に所属して、海外の研究室に数か月滞在する、という機会もあるでしょう。この場合は、日本と違うシステムに身を置くことで、いろいろな気づきがあるのではないかと思います。

アメリカの博士課程は授業がたくさんあって、結構丁寧に育ててくれる感じがしました。イギリスやフランスでは、博士課程の学生がとらなければならない授業というのは少ないですが、ラボミーティング等々でポスドクと混ざって研究発表をしていくうちに、成長できる人は成長していく、という感じです。

私は博士課程からアメリカに留学して、4年間で博士号(PhD)を取りました。アメリカでは特に最初の2年間にぎっちり授業があります。授業の単位を取りながら実験も進めないといけないので、かなり大変でした。4年間、あまり休みはとらず、夜遅くまで勉強して、週末も何かしら(実験か、リポート書きか、勉強)やっていました。フランスの博士課程の学生は、週末をきっちり休むし、バケーションも取るので、ついつい自分の学生時代と比べてしまい複雑な思いになります。

私の場合、修士までに勉強した分野と少し違う分野の博士号を目指したので、すべての授業が必要不可欠でしたし、その分野の言葉を基礎から全て英語で習ったので、アメリカでしっかりと基礎力をつけてもらってよかったと思っています。また、ジャーナルクラブやラボ内でのディスカッションも、研究者としてやっていく上で大切なトレーニングでした。

また、そのころ日本の博士課程の人は(30年くらい前)、返還義務のある奨学金をもらいながらやっている人が多く、金銭的な面から日本で博士号をとることにあまり魅力を感じられませんでした。ところが、アメリカやヨーロッパでは、博士課程の学生は、普通に生活するのに困らない程度のお給料(stipend)をもらいながら、博士課程を卒業できるので、それもアメリカに行く理由の一つでした。

ちなみに、イギリスやフランスでは、博士課程修了までに支払われる給料が受け入れ先(大学、研究所、ラボ)にあることを確認してから学生が採用されるので、普通にやっていれば博士課程を修了できるようになっています。

ところがアメリカの場合は、多くの場合、途中にpreliminary examとか qualifying examというのがあって、見込みがない学生は博士課程の途中で辞めるように言われることがあります。また、博士課程修了までの年数は、担当教授のほぼ独断で決まりします。そのため、受け入れ先に十分な資金があることは、博士課程の学生の受け入れに必要とされません。その結果、ボスが研究資金をとってこれない場合、所属ラボの資金が足りなくなって、博士課程が続けられなくなる
(stipend が出なくなり、研究費用も足りなくなる)という恐ろしいことも起こります。

PhDコースのシステムは国により、大学や研究所により、また資金元により違いがたくさんあります。まずは学びたい分野と研究内容を絞り、入りたいラボをある程度絞り込んでから、システムについて調べていくというのがいい方法ではないかと思います。

やりたいことが絞り込めない場合は、受け入れ態勢の整っている国や大学をまず選んでおいて、そこにやりたい研究があるか、見ていくのも一策でしょう。

海外でポスドク

ポスドクはもう学生でなくて仕事なので、留学とは言えませんね。

受け入れラボにとってポスドクは即戦力。特に既存のプロジェクトのポスドクとして採用された場合は、ガンガン研究を進めて、結果を発表して、ディスカッションして、というのが求められるので、大変ですが、研究者として大変だけどすごく成長するのではないかと思います。

また、ボスによっては、ポスドク後に自分の研究室を主催できるように、プロジェクトを発展させることに手を貸してくれる人もいるので(そこまで余裕がないことも多い)、ラボ選び、プロジェクト選びは研究者のキャリアを築くための大事な選択と言えます。

ポスドクから、自分の研究テーマを築いて、進めていきたいとしたら、ポスドク用のフェローシップを獲得することを強くお勧めします。自分で自分の研究を作って、資金を取得してくれば、自ずと自由が広がります。いろいろなフェローシップがあるので、後日まとめてみたいと思います。

私の場合、ポスドクを6年間、大きな研究所でしました(途中ラボを変えたし、産休も取りました)。その6年間で出会った人の多くは、今世界のいろいろな場所でPIになっており、大きな学会で再会することもよくあります。この時に出会った人たちは、私の研究人生の財産のようなものです。この人脈が得られたことも、ポスドクを外国でしたことのメリットだったと思っています。

最後に

どんな年齢でも、自分の知っている世界から一歩出てみることは、ものの見方を広げることになるでしょう。それまで当然だったことをありがたく思うかもしれないし、変えたいことがでてくるかもしれない。

世界を広げることは、人生を豊かにしてくれるのではないでしょうか。

それぞれの留学時期にありそうな利点を上に挙げてみましたが、経験はひとそれぞれ。

「思い立ったが吉日」という言葉もあるように、留学してみたいと思ったその日から準備を始めれば、きっと大丈夫。思い立つのは簡単ですが、その気持ちを無駄にしないように、小さいことから少しずつ始めて、しっかりとした準備をすることをお勧めしたいです。



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